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シェアブックス スタッフが送るたわいもない日記
  • 2023.03.31 曇り

    宇宙飛行士選抜試験 ファイナリストの消えない記憶 内山 崇 (著)

宇宙飛行士になる為に、どのような人達がどういった試験を受けているのかに興味が湧き、この本を読んでみた。
まず結果から言うと著者はファイナリストには残ったものの宇宙飛行士にはなれなかった。
この本は宇宙飛行士になるという夢が破れた側からの内容と考察である。

選抜試験の大きな流れは、書類選考→一次選抜→二次選抜→最終選抜となる。
宇宙飛行士選抜試験は、次の2つの手法の組み合わせで行われている。
・セレクトイン(集団から基準を満たす適格者をずばり選び出す)
・セレクトアウト(衆参から基準を満たさない不適格者を外していく)
序盤の書類選考と一次選抜はセレクトアウト方式で、学力・教養・精神・心理・身体など多岐にわたる全ての項目で、宇宙飛行士として最低限の基準に達していなければならない。
例えば、他の項目で平均を楽に超える高い点数を取っていたとしても、一項目が基準点以下なら脱落となる。
二次選抜からはセレクトイン方式で個人の資質を計る試験が始まり、通常の人間ドックの3倍にもなる検査で身体中をくまなく調べられ、精神面である深層心理も綿密に分析される。
スポーツテストのような体力検査も受けて、著者は見事に二次選抜を合格し、ファイナリストへと選ばれた。
応募数963名の中から、一次・二次選抜をクリアし最終選抜のファイナリストに選ばれたのは僅か10名で、自衛隊・パイロット・技術者等の職種の人達が最終試験に臨むことになった。
最終選抜は筑波宇宙センターとNASAの宇宙センターで行われる。
回転椅子による平衡機能検査や、隔離エリアによる閉鎖環境試験。
スペースシャトルと船外活動(EVA)のシュミレーター等を行う。
平衡機能検査ではエアーカロリック検査という、耳に温風(44度)冷風(30度)を交互に1分間ずつ吹きかけることでめまいを誘発させる。
その後回転いすに座り、いろんなセンサを付けてから5分ごとに回転数が増していくという聞いただけでも過酷さが伺える検査だが、著者は10分持たずにドクターストップがかかってしまった。
著者は三半規管が弱く、平衡機能検査で他の人達に大きく差をつけれてしまい、これは宇宙飛行士としては、もはや致命的な弱点なのかもしれない。
僕も三半規管が弱く回転系にめっぽう弱いので、この章を読んでいるだけで気持ちが悪くなった。
最終選抜の初日に大きく出端をくじかれた著者だが、まだ試験は始まったばかりで、切り替えてやっていくしかない。
次に行われたのは閉鎖環境試験。
隔離エリアにカメラの監視下の中、10名全員で1週間寝泊まりをし、様々な課題が課せられる。
腕にはアクチグラフというものをつけられ、24時間言動や活動状況が記録される。
ディベートや会社設立ゲーム、さらには時間の縛りが設けられて千羽鶴を折るなどの課題をこなしていく。
閉鎖環境での、技術力・集中力・人間力・チームワークが試される。
奮闘の末、惜しくも夢破れる形となった著者。あと一歩で夢を掴み取る事が出来たはずだったのにと…
その無念の気持ちが克明に記されていたが、この部分を要約してここに書くのは難しく、書いたとしてもかなりの長さになりそうなので、気になる方は本を読んでもらいたい。
個人的には夢破れた後の精神的な葛藤が一番読み応えがあった。

宇宙飛行士という職業は、知力・体力・精神力・人間性・情熱・覚悟等がずば抜けて高い人達だけがなれる最高峰の職業だと率直に感じた。
子供の頃から抱いていた夢を、大人になっても本気で追い続ける姿は本当にかっこよく、この本を読んでいると何も成し遂げていない自分が恥ずかしく感じてくる。
著者は残念ながら宇宙飛行士になる事は出来なかったが、ファイナリストに残っただけでも本当に凄い事だと思う。
この本が面白いなと思ったのは、夢を叶えた側ではなく夢破れた側の複雑な心境が赤裸々に記されてあり、著者自身もこの本を書く事によって気持ちを消化し、自分の心と折り合いをつけていったように思える。
ファイナリストとなり、夢の実現まであと一歩というところまで来たのに叶わなかった心情は想像を絶するものがあるが、一方ではライバルだが戦友の仲間達を本気で応援していて、とても複雑な心境の移り変わりがとても切ない。
著者は宇宙飛行士になる為に最も大切な事だと痛感したのは、覚悟と信頼だと言い切る。
自分の命を預ける信頼と、仲間の命を預かる覚悟が大事だと。
今までは、ただ漠然と宇宙飛行士てすごいな~という感覚だったが、自分が認知していたものを遥かに超えるそれまでの道のりだったり、濃密なドラマがある事を初めて感じた。
全身全霊をかけて何かに打ち込めるというのは、もの凄く素晴らしい事。
そんな人生を自分も送ってみたかった。
こんなスッキリとした読後感のある本は久しぶりだったので読んでよかったと思う。

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