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シェアブックス スタッフが送るたわいもない日記
  • 2021.10.01 雨

    狼の群れと暮らした男

ノンフィクションや冒険記等の本を読んでいると、よく野生の熊や狼の話しが出てくる事がある。
以前から狼を題材にした本を読んでみたいと思っていて、今回手に取った本が
【狼の群れと暮らした男】ショーン・エリス著
「ロッキー山脈の森の中に野生狼の群れとの接触を求め決死的な冒険に出かけた英国人が、飢餓、恐怖、孤独感を乗り越え、ついには現代人としてはじめて野生狼の群れに受け入れられ、共棲を成し遂げた稀有な記録」

アイダホ州にある鬱蒼とした深い森の中へ、狼の群れを求めて最小限の物資だけを持ち、覚悟を決めて一人で命の危険も伴う旅に出る。
食べ物は現地調達で、ウサギやリスを罠にかけ、生肉のまま食す生活を強いられる。
最初の数週間は昼間に行動をしていたがなかなか狼を見つけられず、自分も狼と一緒の夜行性に変える必要があると考え夜間に行動するようになり、ようやく狼の足跡を見つけるまで2ヶ月半かかった。
そして初めて狼と接触したのがその足跡を見つけてからさらに1ヶ月半後。
だが狼はその後姿を現さず、次に会うのはまたさらに1ヶ月後となる。
その後は数日おきに姿を見せる様になり、夜間にはお互いが遠吠えを返す程の仲となって本格的な交流が始まった。
この狼は後に一緒に生活をする事になる群れの用心棒役で、人間である著者を群れにとって危険であるかどうかをずっと見張りながら偵察していたのである。
鳴き声・遠吠え・匂い付け・噛みつきが狼のコミュニケーション手段で、新参者を仲間と見なす為の儀式、噛む・嗅ぐ・匂い付けを頻繁に行い反応をじっと見てくるらしい。
特に噛む儀式は、膝の肉片が切り取られる程噛まれる場合もあり、出血や失神を伴う事もある。
この儀式に無事合格を果たすと、他の群れのメンバーに紹介され、最下位の狼として群れに受け入れられ生きていく事になる。
群れには以下の様にしっかりと役割が分担されている。

【アルファ】 群れの頭脳で意志決定者。獲物の選別もアルファが行い、獲れた獲物の一番栄養価の高い内臓は常にアルファペアのものとなる。非常に知能が高く唯一の繁殖が許される。
【ベータ】  攻撃タイプの用心棒で外部からの脅威に対応し、しつけ係も担う。
【ハンター】ハンターはオスより足の速いメスがなる場合が多く、アルファが決めた獲物を追跡し捕らえる役割。
【テスター】 品質管理役で群れのメンバーが仕事を完遂するように促し、もし仕事をしていない者がいればベータが罰を与える。
【中位~下位】見張り役。群れの安全を守る為、危険を早めに察知し警告する。
【オメガ】  群れの最下位。喧嘩の仲裁等を行い群れの安定を図る。

上から順にランク付けされていて、著者は最下位の狼として、群れの中で役割を与えられて生きていく。
もちろん食べる物も他の狼と一緒で、上位の狼たちが狩りをしてきた鹿や兎等の生肉をちゃんと運んできてくれ与えてくれる。
脅威となる熊が群れの近くに現れた時は、仲間の狼が察知し著者に警告し守ってくれる。
狼になりきって2年間共に暮らし、体中生傷だらけで22キロ体重が落ち、その間は勿論風呂も入れず、生肉だけの食事で心身ともに限界を感じて群れを離れる事を決意する。

後半で著者は飼育下の狼に野生の狼の生態を教える側に回ったり、恋人との関係性について書かれているが、やはり野生の狼と暮らした2年間の手記がこの本の見どころであり、読み物として圧倒された。
厳しく言うなら、読むのは前半の生い立ちと群れと暮らした2年間の章まででよかったかもしれない。

狼は犬の祖先と言われているが、多くの動物学者達は狼と犬は別の生き物で、これらを一緒の生態として考えるのは好ましくないと考えているが、その研究者達から異端児とされている著者は別の見解を主張している。
犬のしつけには狼の生態から学ぶ事が多いという著者の主張は学問的には実証が困難とされているが、やはり2年間も野生の狼の群れと暮らし直接的な観察をした人間からは説得力を感じる。
犬のしつけは暴力や威嚇を行わずに、罰を与える時は無視や冷淡さを前面に出して、精神的なペナルティを与える事が得策だと著者はいう。
多くの学者たちは著者の主張を認めていないというのも、研究対象である狼との距離感がまるで違い、全く異なる視点での研究をしているだろうから、まあそう思うのも仕方ないと思ってしまう反面、自分達が絶対出来ない著者の常軌を逸した偉業(行動)を妬んでいるのかなとも思ってしまう。

最初の読み始めの時は、この話は本当なのだろうか?と疑ってしまう程、現実離れした体験記だったので訝しげに読んでいたが、気付いたら嘘か本当かなんてどうでもよくなっていて、著者が狼達と一緒になって狩りで仕留めてきた生肉を貪り食う様を想像すると、その獣臭がリアルに漂ってくるようで、脳内を見事に活性化された僕は、気付いたら狼の生態に夢中になっていた。

僕がこの本で「狼」について分かった事は、「知的で気高く、力強くも愛情深く、群れの保持を第一とする非常に社会的な美しい生き物」という事だ。
翻訳は結構荒く、それ日本語としてどうなの?と思う部分も多少あるが、著者の狼に対する情熱と愛情は計り知れないものがあり、単純に面白かった。
何よりも自ら望んで狼の群れに入り込み、群れの一員として認められ、さらには2年間も養ってもらったという事実には本当に衝撃と感銘を受けた。
野生の狼に興味がある方にはお勧めしたい一冊だ。

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