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シェアブックス スタッフが送るたわいもない日記
  • 2021.07.24 晴れ

    謎の独立国家ソマリランド

買取してきた本の中で、とても興味深く面白そうな本があったので読んでみた。
その本とは「謎の独立国家ソマリランド」(高野秀行著)
皆さんはソマリランドと言う国をご存じだろうか?
僕はソマリアは聞いた事はあったが、ソマリランドと言う国があるのは知らなかった。
そのソマリアについて知っている事といえば、海賊のイメージとブラックホークダウンという戦争映画の舞台が確かソマリアだったな~という位の浅い知識だった。
この本を読み終えた後は、僕のソマリア、いやアフリカに対する印象がガラッと変わった瞬間だった。

この本では、【謎の独立国家ソマリランド】【海賊国家プントランド】【リアル北斗の拳の南部ソマリア】と大きく三つの地域に分けて話は進んでいく。
この謎すぎる国に著者が持ち前の行動力と運を武器に4年に渡る長期取材をしていき、さらには無謀ともいえる危険な地域への取材を進めていく様は読んでいて痛快で、自分の知らない環境と文化に驚きの連続だった。

【ソマリランド】
ソマリアは一つの国ではなく複数の連邦構成体が分裂状態にあり、飢餓・内戦・海賊等の様々な問題を抱え、政府の腐敗度を示す腐敗認識指数では北朝鮮と並び最低評価をされている国だ。
そんな無政府状態の崩壊国家と呼ばれているソマリアの一角に、10年以上も平和を維持している独立国家がソマリランドで、日本と同等くらい平和で民主的なこの国を、著者は「天空の城ラピュタのような国」と称している。
ソマリ人の特徴は、黙っている大人しいソマリ人は殆どいないらしく、まくしたてる様に自分の好きな話をし、興味が無くなるとさっさと次の話題に移り、自己主張と交渉力がべらぼうに強く、日本人とは真逆の人種らしい。
だが意外にもテキパキと行動して仕事が早く、陽気で人当たりも良く、ホテルのサービスなんかもかなりいいようだ。
ただその機敏な動きで仕事をしているのは、本を読み進めていくと「カート」(覚醒植物)のせいだなというのが丸分かりになっていく。
イスラム教なのでお酒は全くないのだが、このカートは大半のソマリ人が日常的に使用している様で、ソマリランドには日本の自動販売機並みにカート屋台が並んでいる。
そのカートを常用しながら地元民の生活にどっぷりと入り込み親交を深め、ソマリ人以上にソマリ人の様な動きをする変な日本人と地元民はより密接な関係を構築し、本音で奥深い話しをしてくれる。
この様な事を書くと眉をひそめる人もいるかもしれないが、これがこの国の現状でライフスタイルとして確立されていて、日本で皆がワイワイお酒を飲んでいるのと何ら変わりはない。
ソマリランドにはソマリランド・シリングという独自の通貨が存在し、軍隊や政府、さらには民主的な選挙もあり、治安も良く平和を維持し続けている国家なのだが、国際的に国とは承認されておらず、その為「謎の自称独立国家」の位置づけとなっている。

【プントランド】
プントランドは正に我々のイメージにある「ソマリア=海賊 」の舞台である海賊国家だ。
最大の町ボサソは「海賊の首都」と呼ばれ海賊マネーで潤っていて、小綺麗な建物が並んでいるのだが、外国人は武装した護衛なしではすぐに拉致をされて、お得意の身代金問題に発展するようだ。
ソマリランドでは護衛等は必要ないが、さすがの著者もここからは地元のジャーナリストと兵士を複数人雇って取材を行っている。
そのジャーナリストの知り合いの海賊にホテルで取材をしているのだが、ここの話しがとてもリアルで面白かった。
仮に海賊を雇ってドキュメンタリー映像を撮るとしたら費用はどの位かかるかをその海賊に聞いてみると、ボート代・人件費・マシンガンやバズーカ砲のレンタル代・通訳・食費等の初期費用で約5万ドル。
身代金は約100万ドルで成功すると地元の有力者に40%程の謝礼と、細部にわたり細かく料金設定が組まれてある。
にわかには信じがたいが、こんな海賊ビジネスが横行しているという。
そう、この地域での海賊はビジネスなのだ。この事実には目から鱗が落ちた。
イスラム過激派とは何も関係がなく、このプントランドでは普通の漁師やちょっとやんちゃな若者達が、このビジネスに参入しているようだ。
いい家に住み、いい車に乗り、綺麗な女性を連れているロールモデルとなる先輩の海賊達がいて、ここの若者はそんな先輩達に憧れているという。
環境といえばそれまでだが、日本ではお笑い芸人やユーチューバーになりたいと言っている若者達とは大違いだ。

【南部ソマリア】
南部ソマリアモガディシュは内戦下にあるリアル北斗の拳の世界だが、町は意外にも栄えており、ネットカフェ・家電ショップ・レストランが軒を並べていて、今まで立ち寄ってきた街とは比べ物にならない程繁栄している。
だが一番危険な地域の無法都市には変わりなく、外国人はいつ誘拐されてもおかしくないような状況らしい。
護衛はもちろんで移動も装甲車に変わり、続編では乗っていたその装甲車がイスラム過激派アル・ジャバーブの襲撃に遭い、命を落としてもおかしくない状況に陥ったことも。
繁栄と危険が調和している、とてもエキサイティングな町だ。
ここにはテレビ局もあり、そのモガディシュテレビ局の敏腕女支局長ハムディが出迎えてくれている。
二十歳そこらの彼女は意外にもソマリ人とは思えない上品さがあり、おもてなしの心を持ち合わせていた。
歳は若いが知的でバイタリティーに溢れていて、毎日アル・ジャバーブ支配下の場所から見つからない様に暫定政権エリアのテレビ局に出勤し、戦闘やテロを取材してVTRを作り、自分もニュースを読み、またこっそりと敵地へと戻っていく。
このハムディとのくだりが、ここの南部ソマリアの若者を代表する思考と行動であり、新鮮で面白かった。

本を読み終わり何とも言えない達成感に浸っていた僕は、ふと家のテレビを付けてみると、どこぞのワイドショーが誰々が不倫しただのを永遠と垂れ流していて、平和ボケしまくっている日本のテレビに辟易したが、この薄っぺらい内容を放送しているそれこそが平和で幸せな国なんだなと思ってしまった。

文体はユーモアもあり軽快だが、内容は民族紛争の本質に迫っていると思う。
ただ著者は氏族について日本の戦国時代の武将に当てはめていて、分かる人には氏族の関係が把握出来ると思うが、日本の歴史教養が無い僕には本当にざっくりしか把握する事が出来なかった。
分家が多くかなり複雑で一度の通読で完全に把握出来た人は、かなり読解力がある人だと思う。
僕にはこの武将の当てはめは、かえって分かりにくくなったので、1ページを使って簡潔に表の様なものを掲載してくれれば良かったのにと思った。

500ページを超す分厚い本を手にして一瞬読むのを躊躇したが、読んで良かったと思う。
ソマリ人の価値観が手に取るように分かり、凄くエキサイティングな国で、その魅惑の国家を愛してしまった著者の渾身の1冊。
旅行記感覚で読めて著者のソマリランド愛がよく分かり、この1冊を読むだけでソマリアの全てが分かると言っても過言ではないだろう。
最近はソマリア関連のニュースが流れると、この本で培った知識と照らし合わせながら、食いつく様に見てしまう 笑
一生行く事はないであろう紛争地域の内情が分かる本で、自分の知らない世界がまた一つイメージ出来るようになった。 興味がある方は是非一読を。

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