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シェアブックス スタッフが送るたわいもない日記
  • 2021.04.26 晴れ

    極夜行

2018年にノンフィクション大賞を取っている、「極夜行」角幡雄介【著】を読んだ。

【あらすじ】
白夜の反対で日が昇らない時期が数ヶ月続く漆黒の闇を極夜といい、グリーンランドにある地球最北の村シオラパルク(北緯78度)よりGPSなしで一頭の犬だけを連れ添い、単身で4ヶ月間探検をするという内容。
マイナス40℃に達する極寒の光のない暗黒の地で何度も現在地を見失い、幾度となくブリザードに強襲され、デポしていた食料を全て白熊に荒らされて常に食糧難で行動するなど、次々に降り注ぐ困難な状況下で進んでいく。
普段は月明かりだけが頼りで月光のみで行動するが、頼りの月も出ない日は真の闇が訪れる事になる。
ナビゲーションの要となる六分儀を失い、その後は地図とコンパスのみで極夜を進む事となる。
常に命の危険が伴う圧倒的な大自然を計4ヶ月間、その内80日間の真の闇を体験し、その極夜明けの太陽を見て何を思うのか。
読む者を強烈に闇の世界へ誘いこむ極限のサバイバルノンフィクション作品。

【感想】
未知の空間を見つけるのが難しくなってきた現代で「極夜」という見事なテーマの冒険を選んだ著者にセンスを感じ、題名だけで読んでみたいと思った。
この本で白夜とは異なり、日が昇らない極夜という存在(空間)がある事を初めて知った。
スタート地点のグリーンランドシオラパルク先住民族のイヌイットは、1818年に部族以外で初めて見る外の世界から来た探検隊に対し、「お前は太陽から来たのか。月から来たのか。」と尋ねたらしい。
イヌイットは太陽と月という恩恵も厳しさも最大限に受ける過酷な地に存在し、シンプルだが生命体の本質はこういう事かなと感じた。
旅の目的はどこかに到達する事ではなく、極夜という特殊環境そのものを体感する事にあり、僕の知らない未知の空間と闇の本質に迫る本書にぐいぐい引き込まれていった。

著者は冒険とは「脱システム」という持論を掲げて冒険している。
本の中で印象に残った一文を

「毎日、太陽が昇り、夜は人工灯にかこまれ、常時、明かりの絶えないシステムの中で暮らす現代人にとって、二十四時間の闇が何十日間もつづく極夜は想像を絶する世界であり、完璧にシステムの外側の領域である。わけの分からない世界である。
極夜世界においては、極夜そのものが未知であるのはもちろんのこと、極夜に付随する諸々もまた現代人にとっては未知である。現代人は常に明かりにかこまれ、人工的に発生させたエネルギーで文明生活を享受し、その意味で知覚能力および感受性が鈍磨しているため、夜、昼、太陽、月、星、光、闇といった現象や天体の本質的な意味が分からなくなっている。下手すれば、それらは生活の中になくても困らないんじゃないかとさえ考えられるようになっている。
だが、極夜世界では現代システムでは非本質的とみなされるようになった光や闇や天体といったものが、本質的存在として私の旅の継続の、もっといえば私の命の鍵を握っている。
もし私が今度の旅で現代システムからうまく外に飛び出して、極夜世界に入り込むことができれば、それは現代人にとって無意味なものとなり果てた夜や昼や太陽や月や星や、そしてそれらを総合した光と闇の意味を知る旅になるはずだ」原文ママ

地球上にこんな場所があるのかと、さらに自分では考えもつかない著者の持論が、東京というシステムのど真ん中で生活している僕の胸に突き刺さった。
日常の大部分をテクノロジーに依存して、本来人間が持っている能力が錆付いていっているのさえ感じ取れぬまま生活している。
まあ、それは普通に生活をしていれば仕方がない事なのだが、こんなにもハッとさせてくれて気付きがあった本は久しぶりだった。
僕にはそんな命を懸けた冒険は肉体的にも精神的にも到底無理な話だが、自分にテーマを課し、極限状態を体感し、表現している著者を羨ましく思った。
僕は温々としたとても快適な部屋で本を読んでいるが、この手の本は主人公が窮地に追い込まれる程、読み手としては面白くなってくる。
悲惨な体験をしてもらえればもらう程、面白く感じてしまうのが人間の性なのだ。(自分だけかもしれないが)
その点でいうと逆境と絶望の連続で、もしかすると犬は最悪な結末を迎えるかもしれないなと思いながら終始スリリングに読めた。
人によっては読むのをやめてしまうかもしれないような下品と感じるような表現もあり、好き嫌いはあるかもしれないが、僕は知的でユーモアがあり読者に媚びていない文章が面白いと思った。

本には写真が全くないので文章から想像するしかないが、文章表現が素晴らしく、僕の頭の中ではページをめくるたびに鮮明に描写する事ができた。
想像してほしい、人工物が全くなく、生物の気配すらないマイナス40℃にも達する静寂の暗黒世界の中で見る月を。
メインテーマである極夜は勿論だが、それ以外でも犬と人間の関わりかたや、狼と犬との著者の考察も面白かったし、月と天体の描写等、全てにおいて哲学的で面白かった。
寝食を共にし、いくつもの難問を一緒に潜り抜け、一心同体であるはずの最大のパートナーである犬ですら最悪の事態では食料にしようと計算していたのが、心身ともに極限状態だったのを象徴していた。
極夜の旅が終わった時に感じたのは喪失感だったらしいが、それもまた納得だった。
本を通じて、壮大で見事な極夜の世界へ僕を連れ込んでくれた著者に感謝したい。

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↓おまけ↓4ヶ月ぶりに見る極夜明けの太陽の動画があったので貼っておきます↓

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