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シェアブックス スタッフが送るたわいもない日記
【ノモレ】国分 拓(著)を読んだ。

「これは神話ではない。伝説でもない。森のずっと奥。一つの集落が語り継いできた、別れの記憶だ。」
という冒頭の書き出しから始まるこの本は、アマゾン奥地で未だ文明と接触していない少数民族「イゾラド」について描くノンフィクション作品。
イゾラドとは文明社会と未接触の先住民を言い表す総称であり、アマゾンの密林に住む未文明の隔絶された人々のことを指す。
アマゾン源流域にいるイゾラドは部族名や言語はもちろんで、現在何人いるかも把握出来ていない。

100年以上前、南米アマゾンの奥深い森に、黒い黄金と呼ばれていた「ゴム」を求めて、ヨーロッパ等から貴族やならず者達が入り乱れて殺到したという。
採れば採るほど莫大な利益になるゴムの木がある一帯に、白人達は勝手に建物を建て、自分達の「農園」だと主張した。
現地の森と川に生きる「イネ族」という先住民達を銃で脅し、耐え難い重労働を課し、奴隷として扱った。
1902年のことだ。そんな悲惨な日常に嫌気がさしたイネ族の男5人が、主である白人を殺害し、奴隷小屋から仲間を救い出して森へと逃げた。
すぐに用心棒達が後を追ってきたが、深い森を昼夜問わず何日も歩き続け、農園を脱走してから半年後にようやく故郷に戻る事が出来た。
だが、森を逃げきる事が出来たのは全員ではなかった。
追手が近くまで迫ってきているのが分かり、全滅を避けるために二手に分かれて逃げたが、その森で別れた者達は二度と会う事はなかった。
年月が経ち、故郷に逃げ戻ってくる事が出来た者達に、この世を去る日が近づいてきた。
去りゆく者は子孫を集めて、こう言った。
『森で別れたノモレ(仲間)に会いたい。息子達よノモレ(友)を探してくれ。』
人知れぬ密林の中で、別れの記憶と再会の願いが静かに語り継がれていった。
そして、100年の時が過ぎた。

イネ族の若きリーダーである「ロメウ」は農園から逃げ延びた末裔にあたる。
父の代までイゾラドであったが、ロメウ自身は学位を持ち、スペイン語も話し、現在のイネ族は文明化された一族である。
そんなロメウの集落は秘境と呼ばれるアマゾンにあって最も奥地にある集落だが、ある日を境に森林伐採等で奥深く追いやられた部族名も言語も分からないイゾラド達の目撃情報がロメウの周りに相次ぎ報告された。
その謎の部族イゾラドが、村の人々を襲う事例が頻発し、ペルー政府からイゾラドと移住地が近いイネ族のロメウの元に応援要請が届いた。

ロメウはイゾラドの出現情報のある上流の地へと足を運んだ。
未開拓のその地に政府が監視のために建てた質素な小屋を前線基地とし、そこから毎日双眼鏡を使って対岸の監視と、ボートを使ってのパトロールを行うこととなった。
イネ族の常駐員が2名おり、ロメウは白人の人類学者と交代で責任者を務めながら監視していく。
そんなある日、突然彼らが対岸に現れた。
ロメウは古いイネ族の言語で「ノモレ!(仲間)ノモレ!(友)」と叫びながら接触を試みる。
現れたイゾラドの一人の女がジャガーに噛まれて怪我をしており、その治療をしたのがきっかけで、文明社会を知らない彼らとの交流が始まった。
バナナを渡すことによって敵でないことを伝え、本格的な接触が始まり、毎日彼らとコミュニケーションを取っていくにつれ、100年前に森で生き別れ、脈々と語り継がれ伝承されてきたノモレだという思いを強めていく。
その様に考えるようになったのは、彼らの話す言葉が昔のイネ族の言葉に似ている事と、その辺りの植生作物ではないバナナを知っている事。
その昔白人達は農園でバナナの栽培を行っていたと言われ、先祖達が逃げ出す時にそのバナナの種をポケットに入れて逃げ出したと言われている。
もう一つは、文明社会と接触がない彼らは、我々が持つ感染症や病原菌への免疫を持っておらず、普通なら文明人と接触すると一瞬にして病気になるはずだが、ロメウと接触してもその兆候が見受けられない。
これはお互いの先祖達が既に接触していた事を意味するのではないかと推測される。

現れたイゾラドとロメオは会う度に徐々に距離を近づけ、家族の話をし、ニックネームで呼び合うまでの信頼関係で結ばれていった。
だがある日、ロメオとイゾラド達がいつものように川辺で触れ合っている所に、突然けたたましいエンジン音の船が現れ、サングラスをかけた欧米の観光客がイゾラドの家族に向かい、スマートフォンで撮影を始めた。
イゾラド達は鬼の形相となり、船に対して石を投げて威嚇しようとするがロメオが諫め、観光船が去るのを待った。
何とも言えない空虚な時間が流れ、結局その出来事をきっかけに二度と彼らが現れる事はなかった。。

と、ざっとストーリーを書いたが、この本は衝撃的だった。
このデジタル化された現代にまだこんな未開の人達がいたのかと。
初めて接触した時にロメオ達が持っていた人工的なガラスの小瓶を見て、その初めて見る物質を不思議そうにずっと見つめていたという。
言葉が通じず、法律も関係なく、文明側との共通認識を持ち合わせていない彼らは、時に凶暴で、とても用心深い。
時に文明化された村を襲って食料を奪い、はっきりとした理由もなく人を殺す。
また、時に文明社会から持ち込まれた病原菌で一族は全滅し、銃を持った不法な侵略者に住んでいた場所を奪われ、殺される。
文明人にとっては軽い風邪やインフルエンザであっても彼らにとっては致死的なものになりうる。
彼らの命の軽さに胸が締め付けられ、とても切ない話しだった。
観光を外貨収入の柱としているペルー政府は、森林伐採・道路建設・動植物の採取も行う為、どうしてもイゾラド達を文明化させたいのだろう。
幸せの軸をどこに置くかで、いろんな見方が出来る内容の本だなと思った。
興味がある方は是非一読を。

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