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シェアブックス スタッフが送るたわいもない日記
(注)ITやプログラムに興味が無い人は、今回の内容はつまらないと思うので見ない方がいいと思います。そして長いと思います。笑

【 Winny 天才プログラマー金子勇との7年半 】壇 俊光 (著)を読んだ。

今は亡き金子勇氏を知っている人はいるだろうか。
IT業界では知らない人はいないくらい有名な人物だが、金子勇という名前は知らなくても今から20年程前に流行したWinny(ウィニー)なら当時パソコンを触っていた人は知っていると思う。
Winnyとはファイル共有ソフトで、勿論当時の僕はWinnyのヘビーユーザーだった。

僕が自分で初めてパソコンを買ったのは今から約20年前の20代半ばの頃だった。
当時はパソコンを持っている人やインターネットを利用している人はかなり少なく、ネット回線もISDNやADSL等の貧弱な回線だった。
必ずしもパソコンが必要ではなかったその時代に、何故買おうと思ったかというと、その頃よくアジアを旅行していて、訪れた国のいろんな文化や先進的な外国の人々と触れ合う中で様々な情報を得ていったことにより、パソコンの必要性とインターネット上のマーケットに魅了されたからだ。
最初は本を買い漁って独学でプログラム等も勉強していたが、独学で勉強する難しさを痛感し、いつの間にかネット上を徘徊するただの住民に成り下がっていた。
そんな中、友人からWinMXというファイル交換ソフトを教えてもらい、映画・アニメ・スポーツ・アダルト等の様々な映像や音源をユーザーと交換する事によって無料でダウンロード出来るという、夢の様なソフトに夢中になった。
毎日パソコンをフル稼働させて、ファイルのアップロードとダウンロードを繰り返し行っていたが、ある日WinMXユーザーが著作権法違反の疑いで逮捕されたと報道があった。
その時に初めて自分は著作権に触れる違法な事をしているんだと気が付いた。
逮捕者が出た事をきっかけに少しWinMXからは遠ざかっていたが、そこに金子氏が開発したWinnyなる、より優れた後継ソフトが登場して、僕は当然ながら以前以上にそのソフトに夢中になった。
中央サーバが必要なWinMXに対し、Winnyはファイルの共有に中央サーバーを必要としないピュアP2P方式で動作する。(このP2P技術は現在ではブロックチェーン等で利用されている。)
WinMXはファイルをアップロードして交換する必要があるので著作権に引っかかるが、WinnyはP2Pという優れた技術を用いて、ファイルをダウンロードのみで共有した場合は著作権法には抵触しないという認識で僕は利用していた。
ただそんなある日、Winnyの開発者である金子氏が、著作権法違反幇助の罪で逮捕されることになった。

少し前置きが長くなったが、この本はそんなWinnyの開発者でプログラムを心から愛する天才金子に魅了された、著者の壇弁護士による回顧録。
ざっと時系列を書くと、金子氏は2003年に著作権法違反ほう助の容疑で捜索差押を受け、2005年に京都地方裁判所はほう助の成立を認めて罰金刑の有罪判決を下した。
これに対して、無罪を求める弁護側と懲役刑を求める検察の双方が控訴したが2009年に逆転無罪となり、検察はさらに最高裁に上告するも2011年に検察の上告が退けられ金子勇氏の無罪が確定した。
2012年に東京大学の特任講師に就任し研究や開発に従事していたが、2013年7月6日に急性心筋梗塞のため、42歳という若さで稀代の天才はこの世を後にした。

この本には犯罪とはかけ離れた純真無垢で情熱的にプログラムに取り組む金子氏の人柄が記録されている他、プログラムに対して豊富な知識を持つ弁護士が、何も理解していない無知な検察に突っ込みを入れながら軽快な文章で話は進んでいく。
プログラムに対して圧倒的に無知な京都府警と検察は強引に有罪に持ち込もうとするが、壇弁護士率いる弁護団が日本の未来である金子氏を冤罪で有罪にする訳にはいかないと奮起するノンフィクション作品。

長年に渡る裁判で無罪は確定したものの、7年半という貴重な時間が経過していた。
金子氏はWinnyというツールを開発しただけで、それを違法行為で利用した事もないし、その様な利用方法を促したわけでもない。
YouTubeでもテレビ・映画・スポーツ・音楽等の映像や音源が無断でアップロードされている動画をたまに見かけるが、それは著作権侵害にあたる違法行為である。
ただその違法行為は、YouTubeを利用しているユーザーが勝手にやっている事であり、それによってYouTubeの開発者が逮捕される事はないが、Winnyでは同様な事で開発者である金子氏が逮捕されたということである。
最初は軽快に読み進めていたが、途中で怒りと悲しみが混在した不安定な気持ちになり、とてつもなく切なくなってきた。
こんなに優秀な人物を虐げた京都府警は、金子勇というスペシャルな天才技術者の時間を無駄に浪費し、その世界の進歩を止めてしまったのは本当に罪深い。 
現在IT後進国と言われている日本だが、金子氏の存在で大きく変わっていた可能性があったのではないかと、この本を読んで強く思った。
一番脂の乗っている30代を無念にも自国の国家権力に無駄にされたのである。
彼はもう他界していて、大好きなプログラムを書く事が出来ない。
彼が裁判にかけられずに、思う存分その技術を研究して、さらにはまだ現存していたなら、WinnyやP2P技術の発展、さらには日本のネットワークがどう進化していたのかは誰も知る由は無い。

金子氏がイメージしていた世界はまだまだこんなものではなく、もっともの凄いソフトが生み出された可能性もあったのではないかと思っている。
P2P技術は現在ではブロックチェーン(分散型台帳)で利用されていると前途したが、ビットコインの生みの親でその論文がサトシ・ナカモトという名前で提出されている。
このサトシ・ナカモトという人物は、未だに誰かは分かっておらず仮想通貨界隈での最大の謎とされているが、金子勇氏ではないかと言う声も少なくはない。
あくまでも日本のネット界隈での推測の域を超えないが、もし本当にそうだったとしてもおかしくはないなと、この本を読んで思った。
金子氏は、当時難しいとされていた大規模なP2Pネットワークの運用をWinnyによって可能にしており、その技術は現在仮想通貨以外でもLINEやSkype等のあらゆる所で応用されていて、その功績は大きい。

そんなP2Pが用いられているブロックチェーン技術をまだ殆どの日本人が知らないという現状もなかなかの事だなと思っている。
ただ、少しづつだが年々社会に露出してきており、今年「NFT」がブームになり流行語にノミネートされていた。
NFT(non-fungible token)とは非代替性でデジタル上の固有作品の価値を証明でき、誰の所有権かを証明できる技術の事。
以前から非中央集権のブロックチェーンを推している僕は当然NFTにも参加していた。
今年SorareというNFTサッカーゲームにはまっていたが、世界での利用者登録者数が60万人に対し、日本では知名度が殆どなく登録者数はまだ数パーセントの僅かな数らしい。
ゲーム内でも日本人らしきアカウントを見かける事はほぼ皆無で、ほんと日本人は良くも悪くも用心深いな~と思っていたら、今年の流行語大賞にノミネートされていたので本当に驚いた。
まあこれはゲームではなくデジタルアートの方でのノミネートだとは思うが、これからのゲームはブロックチェーンを使ったNFTゲームを多く見かけるようになってくると思う。
ただ有識者が指摘しているとおり、法規制の問題や所有権が法的に留保されていない等の大きな課題もあり、そもそも仮想通貨事態が下火になれば何の意味も持たなくなり、ただの一過性のブームで終わってしまう可能性も大いにある。
ただNFTは一過性で終わってしまう可能性はあるかもしれないが、ブロックチェーンは残り続けるどころか主流になっていくと、個人的には思っている。
メタバース(仮想空間)が取りざたされている昨今、相性がいいとされているブロックチェーンやNFT、またはDeFi(分散型金融)が今後伸びるかどうか長い目で見守っていきたいと思う。

ブロックチェーン技術の登場で、最近は通貨の概念に関する本が多く出回っていて、僕もいろんな本を読んでみたが、個人的にはデジタル通貨(CBDC)の問題は避けられないと思っている。
何年か前にも、デジタル通貨についてこのブログに書いた記憶があるが、今でも自分の考えに変わりはない。
仮想通貨はボラティリティ(価格変動の度合い)が高い為、通貨としては烙印を押される形となり、名称が「暗号資産」に変更され、株などと一緒の資産の位置付けとなった。
ただボラティリティさえ安定していれば、デジタル通貨は全世界に普及する可能性があり、世界各国の共通課題となっている。
そんな分野に早い段階から力を注ぎ、現在トップを独走している国がある。
その国とは、中華人民共和国。
中国は2022年の北京オリンピックで、そのデジタル人民元をお披露目すると言っている。
これがどういう事なのか理解している人は殆どいないと思う。
いろんな本にも書かれているが、もし現在世界の基軸通貨であるドルが、富裕層や貧困層にとっても大変便利な通貨になりうる、デジタル通貨に覇権が移るような事があればどうなるだろうか?
そしてそれがもしデジタル人民元だったとしたら。。
そういう事を突き詰めて考えてみると、少し恐ろしくなるのは僕だけだろうか。
それが10年後か30年後かそれとも何も起こらないかは分からないが、もしそうなったとしたら世界のパワーバランスは大きく変わると言われている。
中国だけではなく世界の各国もデジタル通貨の実装を急いでる中、日本はどうなのだろうか?
未だにキャッシュレス決済が出来ない店や、Suica・PayPay・LINEPay等のアプリが乱立していて統一性が全くなく、店によっては使えるアプリと使えないアプリもある。そもそもキャッシュレス自体の普及率が低く、未だに多額の現金を持ち歩いている日本人は世界に大きな後れをとっている。
頭の柔らかい若い世代の政治家がどんどん出てきて、思い切った政策でこの国を変えていってほしいと切に思う。
頑張れ日本!

途中からは脱線して、ここ数年で僕が読んだ本や実経験に基づいて、自分の考えを長々と書きましたが、あくまでも僕が感じたままを書いただけであって、間違っている事や見当違いな事も言ってるかもしれませんので、その辺りはご容赦ください。

今年もシェアブックスの出張買取や宅配買取をご利用して頂いたお客様、誠に有難うございました。
2022年も宜しくお願い致します!

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ノンフィクションや冒険記等の本を読んでいると、よく野生の熊や狼の話しが出てくる事がある。
以前から狼を題材にした本を読んでみたいと思っていて、今回手に取った本が
【狼の群れと暮らした男】ショーン・エリス著
「ロッキー山脈の森の中に野生狼の群れとの接触を求め決死的な冒険に出かけた英国人が、飢餓、恐怖、孤独感を乗り越え、ついには現代人としてはじめて野生狼の群れに受け入れられ、共棲を成し遂げた稀有な記録」

アイダホ州にある鬱蒼とした深い森の中へ、狼の群れを求めて最小限の物資だけを持ち、覚悟を決めて一人で命の危険も伴う旅に出る。
食べ物は現地調達で、ウサギやリスを罠にかけ、生肉のまま食す生活を強いられる。
最初の数週間は昼間に行動をしていたがなかなか狼を見つけられず、自分も狼と一緒の夜行性に変える必要があると考え夜間に行動するようになり、ようやく狼の足跡を見つけるまで2ヶ月半かかった。
そして初めて狼と接触したのがその足跡を見つけてからさらに1ヶ月半後。
だが狼はその後姿を現さず、次に会うのはまたさらに1ヶ月後となる。
その後は数日おきに姿を見せる様になり、夜間にはお互いが遠吠えを返す程の仲となって本格的な交流が始まった。
この狼は後に一緒に生活をする事になる群れの用心棒役で、人間である著者を群れにとって危険であるかどうかをずっと見張りながら偵察していたのである。
鳴き声・遠吠え・匂い付け・噛みつきが狼のコミュニケーション手段で、新参者を仲間と見なす為の儀式、噛む・嗅ぐ・匂い付けを頻繁に行い反応をじっと見てくるらしい。
特に噛む儀式は、膝の肉片が切り取られる程噛まれる場合もあり、出血や失神を伴う事もある。
この儀式に無事合格を果たすと、他の群れのメンバーに紹介され、最下位の狼として群れに受け入れられ生きていく事になる。
群れには以下の様にしっかりと役割が分担されている。

【アルファ】 群れの頭脳で意志決定者。獲物の選別もアルファが行い、獲れた獲物の一番栄養価の高い内臓は常にアルファペアのものとなる。非常に知能が高く唯一の繁殖が許される。
【ベータ】  攻撃タイプの用心棒で外部からの脅威に対応し、しつけ係も担う。
【ハンター】ハンターはオスより足の速いメスがなる場合が多く、アルファが決めた獲物を追跡し捕らえる役割。
【テスター】 品質管理役で群れのメンバーが仕事を完遂するように促し、もし仕事をしていない者がいればベータが罰を与える。
【中位~下位】見張り役。群れの安全を守る為、危険を早めに察知し警告する。
【オメガ】  群れの最下位。喧嘩の仲裁等を行い群れの安定を図る。

上から順にランク付けされていて、著者は最下位の狼として、群れの中で役割を与えられて生きていく。
もちろん食べる物も他の狼と一緒で、上位の狼たちが狩りをしてきた鹿や兎等の生肉をちゃんと運んできてくれ与えてくれる。
脅威となる熊が群れの近くに現れた時は、仲間の狼が察知し著者に警告し守ってくれる。
狼になりきって2年間共に暮らし、体中生傷だらけで22キロ体重が落ち、その間は勿論風呂も入れず、生肉だけの食事で心身ともに限界を感じて群れを離れる事を決意する。

後半で著者は飼育下の狼に野生の狼の生態を教える側に回ったり、恋人との関係性について書かれているが、やはり野生の狼と暮らした2年間の手記がこの本の見どころであり、読み物として圧倒された。
厳しく言うなら、読むのは前半の生い立ちと群れと暮らした2年間の章まででよかったかもしれない。

狼は犬の祖先と言われているが、多くの動物学者達は狼と犬は別の生き物で、これらを一緒の生態として考えるのは好ましくないと考えているが、その研究者達から異端児とされている著者は別の見解を主張している。
犬のしつけには狼の生態から学ぶ事が多いという著者の主張は学問的には実証が困難とされているが、やはり2年間も野生の狼の群れと暮らし直接的な観察をした人間からは説得力を感じる。
犬のしつけは暴力や威嚇を行わずに、罰を与える時は無視や冷淡さを前面に出して、精神的なペナルティを与える事が得策だと著者はいう。
多くの学者たちは著者の主張を認めていないというのも、研究対象である狼との距離感がまるで違い、全く異なる視点での研究をしているだろうから、まあそう思うのも仕方ないと思ってしまう反面、自分達が絶対出来ない著者の常軌を逸した偉業(行動)を妬んでいるのかなとも思ってしまう。

最初の読み始めの時は、この話は本当なのだろうか?と疑ってしまう程、現実離れした体験記だったので訝しげに読んでいたが、気付いたら嘘か本当かなんてどうでもよくなっていて、著者が狼達と一緒になって狩りで仕留めてきた生肉を貪り食う様を想像すると、その獣臭がリアルに漂ってくるようで、脳内を見事に活性化された僕は、気付いたら狼の生態に夢中になっていた。

僕がこの本で「狼」について分かった事は、「知的で気高く、力強くも愛情深く、群れの保持を第一とする非常に社会的な美しい生き物」という事だ。
翻訳は結構荒く、それ日本語としてどうなの?と思う部分も多少あるが、著者の狼に対する情熱と愛情は計り知れないものがあり、単純に面白かった。
何よりも自ら望んで狼の群れに入り込み、群れの一員として認められ、さらには2年間も養ってもらったという事実には本当に衝撃と感銘を受けた。
野生の狼に興味がある方にはお勧めしたい一冊だ。

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買取してきた本の中で、とても興味深く面白そうな本があったので読んでみた。
その本とは「謎の独立国家ソマリランド」(高野秀行著)
皆さんはソマリランドと言う国をご存じだろうか?
僕はソマリアは聞いた事はあったが、ソマリランドと言う国があるのは知らなかった。
そのソマリアについて知っている事といえば、海賊のイメージとブラックホークダウンという戦争映画の舞台が確かソマリアだったな~という位の浅い知識だった。
この本を読み終えた後は、僕のソマリア、いやアフリカに対する印象がガラッと変わった瞬間だった。

この本では、【謎の独立国家ソマリランド】【海賊国家プントランド】【リアル北斗の拳の南部ソマリア】と大きく三つの地域に分けて話は進んでいく。
この謎すぎる国に著者が持ち前の行動力と運を武器に4年に渡る長期取材をしていき、さらには無謀ともいえる危険な地域への取材を進めていく様は読んでいて痛快で、自分の知らない環境と文化に驚きの連続だった。

【ソマリランド】
ソマリアは一つの国ではなく複数の連邦構成体が分裂状態にあり、飢餓・内戦・海賊等の様々な問題を抱え、政府の腐敗度を示す腐敗認識指数では北朝鮮と並び最低評価をされている国だ。
そんな無政府状態の崩壊国家と呼ばれているソマリアの一角に、10年以上も平和を維持している独立国家がソマリランドで、日本と同等くらい平和で民主的なこの国を、著者は「天空の城ラピュタのような国」と称している。
ソマリ人の特徴は、黙っている大人しいソマリ人は殆どいないらしく、まくしたてる様に自分の好きな話をし、興味が無くなるとさっさと次の話題に移り、自己主張と交渉力がべらぼうに強く、日本人とは真逆の人種らしい。
だが意外にもテキパキと行動して仕事が早く、陽気で人当たりも良く、ホテルのサービスなんかもかなりいいようだ。
ただその機敏な動きで仕事をしているのは、本を読み進めていくと「カート」(覚醒植物)のせいだなというのが丸分かりになっていく。
イスラム教なのでお酒は全くないのだが、このカートは大半のソマリ人が日常的に使用している様で、ソマリランドには日本の自動販売機並みにカート屋台が並んでいる。
そのカートを常用しながら地元民の生活にどっぷりと入り込み親交を深め、ソマリ人以上にソマリ人の様な動きをする変な日本人と地元民はより密接な関係を構築し、本音で奥深い話しをしてくれる。
この様な事を書くと眉をひそめる人もいるかもしれないが、これがこの国の現状でライフスタイルとして確立されていて、日本で皆がワイワイお酒を飲んでいるのと何ら変わりはない。
ソマリランドにはソマリランド・シリングという独自の通貨が存在し、軍隊や政府、さらには民主的な選挙もあり、治安も良く平和を維持し続けている国家なのだが、国際的に国とは承認されておらず、その為「謎の自称独立国家」の位置づけとなっている。

【プントランド】
プントランドは正に我々のイメージにある「ソマリア=海賊 」の舞台である海賊国家だ。
最大の町ボサソは「海賊の首都」と呼ばれ海賊マネーで潤っていて、小綺麗な建物が並んでいるのだが、外国人は武装した護衛なしではすぐに拉致をされて、お得意の身代金問題に発展するようだ。
ソマリランドでは護衛等は必要ないが、さすがの著者もここからは地元のジャーナリストと兵士を複数人雇って取材を行っている。
そのジャーナリストの知り合いの海賊にホテルで取材をしているのだが、ここの話しがとてもリアルで面白かった。
仮に海賊を雇ってドキュメンタリー映像を撮るとしたら費用はどの位かかるかをその海賊に聞いてみると、ボート代・人件費・マシンガンやバズーカ砲のレンタル代・通訳・食費等の初期費用で約5万ドル。
身代金は約100万ドルで成功すると地元の有力者に40%程の謝礼と、細部にわたり細かく料金設定が組まれてある。
にわかには信じがたいが、こんな海賊ビジネスが横行しているという。
そう、この地域での海賊はビジネスなのだ。この事実には目から鱗が落ちた。
イスラム過激派とは何も関係がなく、このプントランドでは普通の漁師やちょっとやんちゃな若者達が、このビジネスに参入しているようだ。
いい家に住み、いい車に乗り、綺麗な女性を連れているロールモデルとなる先輩の海賊達がいて、ここの若者はそんな先輩達に憧れているという。
環境といえばそれまでだが、日本ではお笑い芸人やユーチューバーになりたいと言っている若者達とは大違いだ。

【南部ソマリア】
南部ソマリアモガディシュは内戦下にあるリアル北斗の拳の世界だが、町は意外にも栄えており、ネットカフェ・家電ショップ・レストランが軒を並べていて、今まで立ち寄ってきた街とは比べ物にならない程繁栄している。
だが一番危険な地域の無法都市には変わりなく、外国人はいつ誘拐されてもおかしくないような状況らしい。
護衛はもちろんで移動も装甲車に変わり、続編では乗っていたその装甲車がイスラム過激派アル・ジャバーブの襲撃に遭い、命を落としてもおかしくない状況に陥ったことも。
繁栄と危険が調和している、とてもエキサイティングな町だ。
ここにはテレビ局もあり、そのモガディシュテレビ局の敏腕女支局長ハムディが出迎えてくれている。
二十歳そこらの彼女は意外にもソマリ人とは思えない上品さがあり、おもてなしの心を持ち合わせていた。
歳は若いが知的でバイタリティーに溢れていて、毎日アル・ジャバーブ支配下の場所から見つからない様に暫定政権エリアのテレビ局に出勤し、戦闘やテロを取材してVTRを作り、自分もニュースを読み、またこっそりと敵地へと戻っていく。
このハムディとのくだりが、ここの南部ソマリアの若者を代表する思考と行動であり、新鮮で面白かった。

本を読み終わり何とも言えない達成感に浸っていた僕は、ふと家のテレビを付けてみると、どこぞのワイドショーが誰々が不倫しただのを永遠と垂れ流していて、平和ボケしまくっている日本のテレビに辟易したが、この薄っぺらい内容を放送しているそれこそが平和で幸せな国なんだなと思ってしまった。

文体はユーモアもあり軽快だが、内容は民族紛争の本質に迫っていると思う。
ただ著者は氏族について日本の戦国時代の武将に当てはめていて、分かる人には氏族の関係が把握出来ると思うが、日本の歴史教養が無い僕には本当にざっくりしか把握する事が出来なかった。
分家が多くかなり複雑で一度の通読で完全に把握出来た人は、かなり読解力がある人だと思う。
僕にはこの武将の当てはめは、かえって分かりにくくなったので、1ページを使って簡潔に表の様なものを掲載してくれれば良かったのにと思った。

500ページを超す分厚い本を手にして一瞬読むのを躊躇したが、読んで良かったと思う。
ソマリ人の価値観が手に取るように分かり、凄くエキサイティングな国で、その魅惑の国家を愛してしまった著者の渾身の1冊。
旅行記感覚で読めて著者のソマリランド愛がよく分かり、この1冊を読むだけでソマリアの全てが分かると言っても過言ではないだろう。
最近はソマリア関連のニュースが流れると、この本で培った知識と照らし合わせながら、食いつく様に見てしまう 笑
一生行く事はないであろう紛争地域の内情が分かる本で、自分の知らない世界がまた一つイメージ出来るようになった。 興味がある方は是非一読を。

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